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ブランディング

歯科医院のブランディングは待合室から|「あの歯医者さん」と覚えてもらうために

公開  | アートパーク編集部(株式会社NEVER)

夜の通りから窓越しに見える歯科医院の待合室。壁の大画面の光が歩道までやわらかく届いている

※写真はイメージです。

「歯科 ブランディング」と聞くと、ロゴや看板、ホームページのデザインを思い浮かべる院長が多いかもしれません。けれども患者さんが医院を覚えるのは、ロゴを見たときよりも、電話をかけ、受付で名前を呼ばれ、待合室で過ごし、帰り道に思い返したときです。この記事では、ブランディングを「患者さんの体験の一貫性」ととらえ直し、コンセプトの決め方、接点の棚卸し、記憶に残る待合室のつくり方、医療広告ガイドラインとの付き合い方を順に整理します。開業準備中の方にも、開業後に医院の印象を整え直したい方にも使える内容です。

歯科医院のブランディングとは「体験をそろえること」

ブランディングという言葉は広い意味で使われますが、医院にとって実務的に役立つ定義は「患者さんが医院について思い浮かべるイメージを、意図した方向にそろえていく取り組み」です。ロゴや色はその手段の一つにすぎません。

ロゴを変えても印象が変わらない理由

たとえば「やさしい歯医者さん」を掲げてロゴを丸みのある書体に変えたとしても、電話口の対応がそっけなかったり、待合室の掲示物が注意書きばかりだったりすれば、患者さんの記憶に残るのは後者です。人は医院を、見た目の記号ではなく、そこで起きた出来事の積み重ねで覚えます。ブランディングがうまくいっている医院は、どの場面を切り取っても「この医院らしい」と感じられる状態をつくっています。

差別化は「違うこと」より「覚えてもらえること」

歯科医院の差別化というと、設備や診療メニューの違いを並べがちです。もちろん大切ですが、患者さんの側から見ると設備の違いは比べにくく、記憶にも残りにくいものです。むしろ「受付の方がいつも子どもの名前を覚えてくれている」「待合室が明るくて落ち着く」といった体験のほうが、家族や知人との会話で「あの歯医者さん」として語られやすくなります。差別化のゴールは、ほかと違うことそのものではなく、思い出してもらえることだと考えると、打ち手が具体的になります。

ポイント

ブランディングの成果は「同じ言葉で説明される医院」になることです。院長、スタッフ、患者さんが、医院を似た言葉で説明できる状態を目指しましょう。

コンセプトの決め方|一文にできるまで絞る

体験をそろえるには、そろえる基準となるコンセプトが必要です。コンセプトはスローガンではなく、スタッフが迷ったときに判断の拠りどころにできる「約束の言葉」です。次の手順で決めると、現場で使える形になりやすくなります。

手順1:誰のための医院かを決める

すべての人に向けた医院は、誰の記憶にも残りにくくなります。地域の人口構成、駅からの距離、周辺の住宅や学校、院長自身の得意分野を書き出し、「主にどんな方に来てほしいか」を一つ決めます。子育て世代、働く世代、ご高齢の方など、中心となる患者さん像を決めても、ほかの方を断るわけではありません。判断の優先順位を決めるだけです。

手順2:その方が医院に対して抱く不安を書き出す

子育て世代であれば「子どもが泣いて迷惑をかけないか」「待ち時間に子どもがじっとしていられるか」、働く世代であれば「予約どおりに終わるか」「説明が短くて分かりやすいか」といった不安が考えられます。スタッフ全員で付箋に書き出すと、院長が気づいていない声が出てきます。

手順3:不安の裏返しを約束にする

書き出した不安の中から、医院として本気で取り組めるものを一つか二つ選び、「〜な医院」という一文にまとめます。たとえば「親子で来るのが楽しみになる歯医者さん」「時間どおりに、分かりやすく」などです。大切なのは、実際の診療や運営で守れる約束にすることです。守れない約束は、かえって印象を損ないます。

手順4:言葉を行動に落とす

コンセプトが決まったら、「では受付では何をするか」「待合室には何を置き、何を置かないか」を具体的な行動に変えます。ここまでやって初めて、コンセプトは飾りではなく運営の道具になります。

チェックリスト

患者さんとの接点を棚卸しする

コンセプトが決まったら、患者さんが医院と触れるすべての場面を書き出し、それぞれがコンセプトに合っているかを確かめます。これを接点の棚卸しと呼びます。次の表は、歯科医院でよく見直される接点と確認の観点の例です。

接点患者さんが受け取ること確認したいこと
院外看板、外観、夜の見え方、ホームページ、地図サービスの情報前を通る人に何の医院か伝わるか。写真や営業時間が古くないか
予約電話の第一声、ネット予約の画面、確認の連絡名乗り方や言葉づかいが全員でそろっているか。予約画面で迷わないか
受付あいさつ、問診票、呼び出し方初診の方に流れを説明しているか。子ども連れへの声かけがあるか
待合室明るさ、音、におい、掲示物、過ごし方待つ時間に何をして過ごせるか。掲示物が注意書きだけになっていないか
診療室説明の仕方、器具の音、目線の高さ治療前に何をするかを伝えているか。子どもに合わせた言葉を使っているか
会計金額の説明、次回予約、見送り最後の一言が決まっているか。次回の内容を分かりやすく伝えているか

棚卸しのコツは「患者さんの順番」で歩くこと

表を埋めるときは、実際に医院の外から入り口、受付、待合室、診療室、会計と、患者さんと同じ順番で歩いてみるのがおすすめです。できれば開院前の静かな時間と、混み合う時間の両方で歩いてください。スタッフに患者さん役をお願いし、電話予約から体験してもらうと、普段は見えない引っかかりが見つかります。

直す順番は「最初と最後」から

すべてを一度に直す必要はありません。体験の印象は、始まりと終わりに強く左右されやすいといわれます。予約の電話や受付の第一声、会計での見送りの一言は、費用をかけずに今日から変えられる接点です。次に、滞在時間が長くなりやすい待合室に手を入れると、効果を実感しやすくなります。

待合室が医院の印象を決めやすい理由

診療室での時間は、患者さんにとって緊張している時間です。説明を聞き、口を開け、治療に集中しているため、周りの様子を落ち着いて見る余裕はあまりありません。一方、待合室では患者さんも付き添いのご家族も、時間をかけて医院を眺めます。待合室は、医院の「らしさ」がもっとも長く、もっとも冷静に見られる場所なのです。

誰もいない明るい待合室。壁に大画面が一台あり、床には何も置かれていない
床に物を置かない待合室は、掃除がしやすく、すっきりとした印象につながります。※写真はイメージです。

記憶に残る待合室の三つの条件

一つ目は、コンセプトと合っていることです。「親子で来るのが楽しみになる歯医者さん」を掲げるなら、子どもが待ち時間を過ごせる工夫が必要ですし、「時間どおりに、分かりやすく」を掲げるなら、待ち状況や流れが一目で分かる掲示が効いてきます。

二つ目は、話題にしやすい何かがあることです。帰り道や家庭で「今日の歯医者さんでね」と話すきっかけになるものがあると、医院の名前と体験が結びつきます。大きな絵、季節の飾り、子どもが楽しめる仕掛けなど、形はさまざまです。

三つ目は、清潔さと手間のバランスがとれていることです。共有のおもちゃや絵本は子どもに喜ばれる一方、消毒や片づけの手間がかかり、感染対策の観点から撤去した医院も少なくありません。スタッフの負担が大きい仕掛けは、忙しい日に手入れが行き届かなくなり、かえって印象を下げてしまうことがあります。

夜の見え方も、待合室の役割

待合室は院内のためだけの空間ではありません。通りに面した窓がある医院では、夕方以降、明かりのついた待合室そのものが看板の役割を果たします。中の様子がやわらかく見えると、通りがかった方にも「入りやすそうな医院」という印象を持ってもらいやすくなります。

待合室の一角に「描いた絵が泳ぐ画面」を置くという選択肢

手間をかけずに話題をつくる方法の一つとして、私たちが提供している「アートパーク」があります。待合室のテレビ一台に、お子さんが親御さん自身のスマートフォンで描いた魚などの絵が映り、大画面の水槽を泳ぎだすサービスです。医院に共有のおもちゃやタッチパネルを置かないため、消毒や片づけは要らず、スタッフの日々の作業はありません。アプリのインストールや会員登録も不要で、お子さんの氏名や顔写真は取得しません。

描いた絵は数分ほどで画面から退場し、日をまたいで残ることはありません。その時間に居合わせた子どもどうしの絵が一緒に泳ぐ、その場限りの体験です。だからこそ「また描きたい」という気持ちが、歯医者さんに行く理由の一つになり得ます。親御さんが自発的に写真を撮り、SNSに載せることもありますが、投稿はあくまでご本人の自由な判断によるものです。

待合室のテレビ画面の中で、子どもたちが描いたカラフルな魚が泳いでいる実際の画面
実際の画面。子どもたちが描いた魚が、大画面の水槽を泳ぎます。

医療広告ガイドラインとの付き合い方

ブランディングに取り組むと、ホームページやSNS、院内掲示で医院の魅力を伝えたくなります。その際に必ず意識したいのが、厚生労働省の医療広告ガイドラインです。医療機関の広告には一般の商品やサービスとは異なるルールがあり、ホームページも規制の対象に含まれるとされています。ここでは一般的に知られている考え方を整理します。個別の判断は、厚生労働省の医療広告ガイドラインや自治体の窓口でご確認ください。

注意

ブランディングとガイドラインは対立しない

ガイドラインは「魅力を伝えてはいけない」というルールではなく、「患者さんを誤解させてはいけない」というルールだと考えると整理しやすくなります。体験の一貫性を軸にしたブランディングは、誇張した言葉に頼らず、医院の実際の取り組みを伝えるものです。たとえば「予約の際に、治療の流れを書面でお渡ししています」「待合室に、お子さんが過ごせるスペースがあります」といった事実の説明は、医院の姿勢を伝える方法として使いやすいものです。

クチコミや紹介との距離感

患者さんがご自身の判断で書き込むクチコミは、医院が発信する広告とは性質が異なります。ただし、クチコミを書いてもらう代わりに割引や粗品を渡す、満足していそうな方だけに書き込みをお願いするといった行為は、掲載サービスのルールに反するおそれがあり、避けるべきです。医院が整えるべきなのは、良い体験そのものです。体験が一貫していれば、医院を語る言葉も自然とそろっていきます。

小さく始めて、そろえ続ける進め方

ブランディングは一度つくって終わりではなく、日々の運営の中でそろえ続けるものです。最後に、無理なく続けるための進め方を時期ごとに整理します。

時期やること
最初の1か月コンセプトを一文に決める。スタッフと共有する。電話の第一声と会計での最後の一言をそろえる
2〜3か月目接点の棚卸し表をつくり、患者さんの順番で院内を歩く。待合室の掲示物を見直し、注意書きを減らす
半年後まで待合室の過ごし方や院外からの見え方に手を入れる。ホームページや地図サービスの写真と情報を今の医院に合わせる
その後朝礼や院内ミーティングで、コンセプトに合った行動と合わなかった場面を共有し、少しずつ直す

スタッフを巻き込むための工夫

体験をつくるのは院長一人ではなく、受付や歯科衛生士、歯科助手を含めたスタッフ全員です。コンセプトを決める段階からスタッフに意見を聞くと、現場で守れる約束になりやすく、日々の判断にも使われるようになります。「この対応はコンセプトに合っているか」を話し合える雰囲気そのものが、医院の文化として患者さんに伝わります。

変化は患者さんの言葉で確かめる

取り組みの手応えは、数字よりもまず患者さんの言葉に表れます。受付や会計で聞こえた何気ない一言、ご家族が帰り際に交わした会話をスタッフ間で共有しておくと、医院がどう覚えられているかが少しずつ見えてきます。意図した言葉で語られていれば方向は合っており、違う言葉で語られていれば、どこかの接点にずれがあるという合図です。

まとめ

歯科医院のブランディングは、ロゴや看板をつくることではなく、予約から受付、待合室、診療室、会計、院外まで、患者さんの体験をコンセプトに沿ってそろえることです。まず誰のための医院かを決め、その方の不安の裏返しを一文の約束にし、接点を患者さんの順番で棚卸ししてみてください。なかでも待合室は、医院の「らしさ」がもっとも長く見られる場所です。医療広告ガイドラインを守りながら、誇張ではなく実際の体験で、「あの歯医者さん」と覚えてもらえる医院を目指しましょう。

アートパーク編集部(株式会社NEVER)
歯科・小児科の待合室向けに、子どもが描いた絵がテレビの大画面で泳ぐ「アートパーク」を開発・提供しています。愛知県豊川市。