クリニックの授乳室・おむつ替えスペースのつくり方|専用室が無理な小さな医院の代替案と、案内・声かけ・衛生の確認点
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乳幼児を連れて受診する保護者にとって、「授乳できる場所はあるか」「おむつを替えられるか」は、医院を選ぶときにも、待ち時間を過ごすときにも気になる点です。とはいえ、テナントの小さなクリニックでは、授乳室を新しく一部屋つくる余裕はなかなかありません。この記事では、専用の授乳室を設けられない医院でもできる代替案を比較し、授乳スペースを設置するときの手順、案内表示の書き方、スタッフの声かけ例、衛生と安全の確認点までをまとめました。子連れ受診への配慮を、明日から少しずつ整えたい院長・事務長の方に向けた内容です。
クリニックに授乳室・おむつ替えの場所が求められる理由
クリニックの授乳室は、大きな病院や商業施設のように「あって当然」の設備とは見られていないかもしれません。しかし、乳幼児を連れた保護者は、受付から会計までの間に、授乳やおむつ替えが必要になる場面にしばしば出会います。予約どおりに呼ばれても、検査の待ちや会計の待ちが重なれば、赤ちゃんの都合に合わせて動かざるをえないからです。
保護者が困るのは「場所がない」より「どうすればいいか分からない」
保護者が実際に困るのは、立派な授乳室がないことよりも、「ここで授乳してもいいのか」「おむつはどこで替えればいいのか」「替えたおむつをどこに捨てればいいのか」が分からないことです。聞けば教えてもらえるとしても、忙しそうな受付に声をかけるのをためらう方は少なくありません。結果として、車に戻って授乳したり、トイレの狭い床で無理におむつを替えたりすることになります。
つまり、専用室がなくても、「ここなら使えます」と分かる場所と案内があるだけで、保護者の負担はかなり変わります。この記事の考え方の軸もそこにあります。
子連れの患者さんは、どの診療科にもいる
小児科や小児歯科だけでなく、保護者自身が受診する内科・歯科・皮膚科・耳鼻科などでも、赤ちゃんを預けられずに連れてくる方がいます。「うちは小児科ではないから」と考えず、子連れ受診への配慮として一度見直してみる価値があります。小児科の待合室全体の考え方は小児科の待合室づくりでも整理しています。
専用室が無理なときの代替案|5つの型を比べる
授乳スペースの確保には、専用室をつくる以外にもいくつかの方法があります。医院の広さ、レイアウト、診療科、子連れの患者さんの多さによって向き不向きが違うため、まずは選択肢を並べて比べてみましょう。
| 型 | 内容 | 向いている医院 | 気をつけたいこと |
|---|---|---|---|
| 専用の授乳室 | 扉か鍵のある小部屋を授乳・おむつ替え専用にする | 新規開業や改装の予定がある医院 | 面積と工事が必要。使っていない時間が長くなりやすい |
| 空き部屋の兼用 | 相談室・処置室・検査室などを、空いている時間に授乳用として貸す | 使用頻度の低い個室がある医院 | 使えない時間がある。消毒・片づけの段取りを決めておく |
| カーテン・パーティションで仕切る | 待合室の一角を可動式の仕切りで囲い、椅子を置く | 待合室にある程度の余白がある医院 | 音や気配は通る。仕切りの安定と転倒防止が必要 |
| 多目的トイレ内のおむつ替え台 | おむつ替えはトイレのベビーシートで行ってもらう | 多目的トイレがある医院 | 授乳には向かない。長時間ふさぐと他の方が困る |
| 声かけで個室へ案内 | 常設の場所は持たず、申し出があれば空いている部屋へ案内する | とにかく余白がない小さな医院 | 申し出にくいので、案内表示とセットにする |
小さな医院のおすすめは「兼用+案内」
テナントの小規模なクリニックでは、専用室をつくるより、すでにある個室を兼用する方法に案内表示と声かけを組み合わせるのが現実的です。たとえば「カウンセリング室は、診療で使っていない時間は授乳・おむつ替えにお使いいただけます」と決め、受付に一言伝えれば案内する流れにします。新しい面積は不要で、ルールを決めるだけで始められます。
一方、患者さんに乳幼児連れが多い医院や、開業・改装を控えている医院は、設計の段階で専用のスペースを検討する価値があります。その場合も、扉の外から「使用中」が分かる表示、ベビーカーごと入れる幅、手洗いまでの距離を一緒に考えておくと、後から困りません。
おむつ替えと授乳は分けて考える
おむつ替えと授乳は、同じ場所でまとめて考えがちですが、求められる条件が違います。おむつ替えは短時間で、汚物の処理と手洗いが近いことが大切です。授乳は時間がかかり、落ち着ける椅子と視線の遮りが大切です。おむつ替えはトイレのベビーシート、授乳は空き部屋と分けるだけで、どちらも無理なく確保できる場合があります。
「授乳室」と名前をつけられる部屋がなくても、保護者が知りたいのは「授乳できる場所」「おむつを替えられる場所」「おむつを捨てる場所」の3つです。この3つがそれぞれどこなのかを一枚の紙に書き出すところから始めると、足りないものがはっきりします。
授乳スペースを設置する手順と、そろえたい物
兼用の部屋でも仕切りの一角でも、授乳スペースの設置は次の順番で進めると漏れが少なくなります。
設置の5ステップ
- 場所を決める:受付から見える範囲で、診療の動線とぶつからない場所を選ぶ。スタッフの目が届くことは、安全の面でも大切です。
- 使えるルールを決める:使える時間帯、使うときの申し出方法、使用中の表示方法、他の用途と重なったときの優先順位を決めます。
- 物をそろえる:下の表を参考に、最低限の物から置きます。最初からすべてそろえる必要はありません。
- 案内をつくる:受付、待合室、ウェブサイトの3か所で、場所と使い方を伝えます(次の節で詳しく説明します)。
- 試して直す:スタッフ自身がベビーカーを押して入ってみる、椅子に座ってみるなど、実際の動きで確かめます。保護者から聞いた声をもとに、1か月ほどで見直します。
そろえたい物の優先順位
| 優先度 | 物 | 理由・選び方の目安 |
|---|---|---|
| まず置く | ひじ掛けのある椅子 | 赤ちゃんを抱いたまま座って立つ動作が楽になる。座面が拭ける素材だと管理しやすい |
| まず置く | 視線を遮るもの(扉・カーテン・ついたて) | 授乳の安心感に直結する。上部や足元からのぞけないか確認する |
| まず置く | ふた付きのごみ箱と、おむつ用の袋 | においと汚物の処理。袋を用意しておくと持ち帰りを選ぶ方にも親切 |
| あると助かる | 手指消毒剤・ウェットティッシュ | 手洗い場が離れている場合は特に必要 |
| あると助かる | 荷物を置く台やフック | 保護者は荷物が多い。床に直置きしなくて済む |
| あると助かる | 呼び出しの方法 | 授乳中に順番が来たときに困らないよう、声かけの方法を決めておく |
おむつ替え台を新しく置く場合は、医院の都合だけで選ばず、取扱説明書にある設置条件や使用できる月齢・体重の目安を確認してください。壁付けの製品は壁の下地や強度の確認が必要になることがあるため、内装業者や建物の管理者に相談したうえで進めましょう。
案内表示とスタッフの声かけ|「使っていいのか」をなくす
授乳スペースを用意しても、知られていなければ使われません。そして、知っていても「使っていいのか分からない」と感じれば、やはり使われません。案内表示と声かけは、設備と同じくらい大切です。
案内表示は3か所に置く
- 受付:「授乳・おむつ替えの場所をご用意しています。お気軽にお声がけください」と、目線の高さに小さく掲示する
- 待合室・部屋の前:場所と使い方、使用中の表示の見方を書く。「どなたでもお使いいただけます」と添えると、父親や祖父母も使いやすくなる
- ウェブサイト・予約画面:アクセスや院内設備のページに、授乳やおむつ替えの場所の有無と、ベビーカーで入れるかどうかを書く
ウェブサイトへの記載は、子連れで初めて受診する方が事前に確かめられる情報として役立ちます。医院の情報発信の表現については、厚生労働省の医療広告ガイドラインもあわせてご確認ください。また、自治体によっては授乳やおむつ替えができる場所を登録・紹介する取り組みを行っている場合があります。貴院の地域にそうした制度があるか、自治体のホームページで確かめてみるのもよいでしょう。
受付・スタッフの声かけ例
声かけは、保護者から申し出てもらうのを待つより、こちらから先に伝える方が負担を減らせます。場面ごとの例を挙げます。
| 場面 | 声かけの例 |
|---|---|
| 受付時(乳児連れ) | 「授乳やおむつ替えが必要なときは、奥のお部屋をお使いいただけます。いつでもお声がけくださいね」 |
| 赤ちゃんが泣き出したとき | 「お部屋が空いていますので、よろしければ落ち着くまでそちらでお待ちください。順番になったらお呼びしますね」 |
| 授乳中に順番が来たとき | 扉の外から「○○さん、順番が来ました。終わりましたらそのまま診察室へどうぞ。お急ぎにならなくて大丈夫です」 |
| おむつを捨てる場所を聞かれたとき | 「こちらのふた付きのごみ箱にどうぞ。袋もご用意していますので、お持ち帰りの場合もお使いください」 |
大切なのは、「急がなくていい」「順番は飛ばさない」と伝えることです。授乳中に呼ばれて慌てたり、順番を後回しにされるのではと不安になったりすると、保護者は授乳スペースを使うのをためらいます。授乳中の方の順番をどう扱うかは、あらかじめ院内で決めてスタッフ全員で共有しておきましょう。
- 扉の外から呼ぶときは、診療内容や症状など、周りに聞かれたくない可能性のある情報を口にしないようにします。
- 授乳スペースの中に防犯カメラを向けることは避け、カメラの設置場所や映る範囲を掲示などで分かるようにしておくと安心です。個人情報の扱いについては、院内の規程や関係する法令・ガイドラインに沿って運用してください。
衛生と安全の確認点|おむつ替えで起きやすい失敗
医院のおむつ替えスペースや授乳スペースは、感染対策の考え方を院内のほかの場所と同じように当てはめる必要があります。家庭の延長ではなく、多くの人が使う場所として運用を決めておきましょう。
衛生面の運用を決める
- 拭き取りのタイミング:使うたびに拭くのか、使った後にスタッフが拭くのか、決まった時刻に拭くのかを決める。おむつ替え台は使用ごとの拭き取りが基本です
- 使い捨てシート:おむつ替え台に敷く使い捨てシートを置いておくと、保護者も安心して使える
- 汚物の処理:ふた付きのごみ箱を置き、回収の頻度と担当を決める。においがこもる場合は回収回数を増やす
- 手洗い:手洗い場までの距離が遠い場合は、手指消毒剤を必ず置く
- 体調の悪い子との距離:小児科などで発熱・発疹のある子の待機場所がある場合、授乳スペースとの動線が重ならないかを確認する
拭き取りに使う薬剤や手順は、院内の感染対策の手順と合わせて決めてください。製品ごとに使える薬剤が指定されている場合もあるため、取扱説明書の確認も必要です。待合室のおもちゃや備品の消毒の考え方は、歯科・小児科のキッズスペースでも触れています。
おむつ替えで起きやすい失敗
- 台の上で目を離す:保護者が荷物を取ろうとした一瞬に、赤ちゃんが転落しそうになることがあります。ベルトがある台はベルトを使うよう、台の近くに掲示しておきましょう。
- 荷物の置き場がない:置き場がないと保護者は片手で荷物を探すことになり、目が離れます。台のすぐ横に荷物を置ける場所をつくります。
- 使用中か分からない:兼用の部屋に、スタッフが確認せず入ってしまう。扉に「使用中」の札を用意し、入るときは必ずノックする決まりにします。
- 上の子の居場所がない:きょうだいを連れた保護者は、上の子を待合室に残せず、狭い部屋に一緒に入ることになります。上の子が安全に待てる場所を近くに確保します。
- 仕切りが倒れる:可動式のついたてやパーティションは、子どもがつかまると倒れることがあります。転倒防止の固定や、重心の低いものを選びます。
子連れ受診の待ち時間を、保護者が一人で抱えない工夫
授乳やおむつ替えの場所が整っても、子連れ受診の大変さは「待ち時間」に集中します。とくに、赤ちゃんを抱えながら上の子の相手もしなければならない保護者は、待合室で気が休まりません。配慮を場所だけで終わらせず、待ち時間の過ごし方まで目を向けると、子連れの患者さんにとっての通いやすさが変わります。
待ち時間を短く、見通しやすくする
- 乳児連れの方には、混み具合や呼ばれるまでの目安を受付で一言伝える
- 順番が近づいたら声をかけ、車や授乳スペースで待っていても呼び出せる方法を用意する
- 会計や次回予約をまとめて済ませ、帰りの待ちを減らす
待ち時間を減らす運用の工夫は、歯科・小児科の待ち時間対策で詳しく紹介しています。
上の子が安全に待てる場所をつくる|アートパークという選択肢
保護者が赤ちゃんの授乳やおむつ替えをしている間、上の子が待合室で落ち着いて過ごせるかどうかは、保護者の安心に直結します。一方で、小さな医院が授乳スペースを捻出しようとすると、キッズスペースに使っていた床を削ることになりがちです。
当社が提供している「アートパーク」は、待合室のテレビ1台で、お子さんが親御さんのスマートフォンで描いた魚などの絵が、大画面の水槽「すいぞくかん」を泳ぎだすサービスです。テレビを壁に掛ければ床を使わずに済むため、限られた面積を授乳スペースやベビーカーの置き場に回す、という考え方もできます(壁への取り付けは医院さまでの手配になります)。共有のおもちゃやタッチパネルを置かないので、消毒や片づけの手間もかかりません。アプリのインストールや会員登録は不要で、お子さんの氏名・顔写真・生年月日は取得しません。描いた作品は5分ほど(最長10分)で画面から退場し、日をまたいで残ることはありません。上の子が絵を描いて画面を眺めている間に、保護者が赤ちゃんのお世話をする、といった待ち時間の過ごし方のきっかけの一つになればと考えています。

- 授乳できる場所・おむつを替えられる場所・おむつを捨てる場所が、それぞれ決まっている
- 専用室がない場合、兼用する部屋と使える時間帯を決めている
- 使用中であることが外から分かる表示がある
- 授乳スペースに、ひじ掛けのある椅子と視線を遮るものがある
- ふた付きのごみ箱と、おむつ用の袋を用意している
- 手洗い場が遠い場合、手指消毒剤を置いている
- おむつ替え台の拭き取りのタイミングと担当を決めている
- おむつ替え台の近くに、ベルト使用や目を離さないことの掲示がある
- 受付・待合室・ウェブサイトの3か所で案内している
- 乳児連れの方に、受付で先に声をかけている
- 授乳中に順番が来たときの呼び方と、順番の扱いを決めている
- 扉の外から呼ぶとき、症状などを口にしないようにしている
- 上の子が安全に待てる場所を近くに確保している
- 1か月ほど運用したら、保護者の声をもとに見直す予定を立てている
まとめ
クリニックの授乳室は、専用の部屋がなければ用意できないものではありません。保護者が知りたいのは「授乳できる場所」「おむつを替えられる場所」「おむつを捨てる場所」の3つです。小さな医院なら、空いている個室の兼用やトイレのベビーシートを組み合わせ、使えるルールを決めるだけでも始められます。そのうえで、案内表示を受付・待合室・ウェブサイトに置き、スタッフが先に声をかけ、「急がなくていい」「順番は飛ばさない」と伝えることで、子連れ受診のためらいを減らせます。衛生と安全は、拭き取りのタイミング、汚物の処理、目を離さないための掲示と荷物の置き場まで決めておきましょう。上の子の居場所も含めて待ち時間全体を見直すと、子連れの患者さんにとって通いやすい医院に近づきます。