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クリニックの防災マニュアルの作り方|診療所のBCPとの違い、地震・停電・水害の初動、待合室の避難誘導と役割分担表・備蓄品・訓練

公開  | アートパーク編集部(株式会社NEVER)

壁に大きなテレビがかかった歯科医院の待合室。床に物が少なく、子どもがクッションに座って画面を見ている

※写真はイメージです。

診療中に大きな揺れが来たら、だれが診療室の患者さんに声をかけ、だれが待合室の親子を誘導し、だれが電源や薬品を確認するのか。すぐに答えられない場合は、クリニックの防災マニュアルを見直すよい機会です。外来中心の診療所は、スタッフの人数が限られるうえ、待合室には高齢の方や小さな子ども連れの保護者もいます。この記事では、防災マニュアルと診療所のBCP(事業継続計画)の違いを整理したうえで、地震・停電・水害の初動、待合室の避難誘導、役割分担表、備蓄品リスト、避難訓練のやり方、見直しの手順までを、院長・事務長の方が明日から使える形でまとめました。

クリニックの防災マニュアルと診療所のBCPの違い

「防災マニュアル」と「BCP」は似た言葉として使われがちですが、目的と時間の範囲が違います。どちらか一方だけをつくると、発災直後は動けても再開の段取りがない、あるいは再開の計画はあるのにその場で患者さんを守る手順がない、という状態になりやすくなります。

目的と時間の範囲で分けて考える

項目防災マニュアルBCP(事業継続計画)
主な目的その場にいる患者さんとスタッフの命と安全を守る診療をできるだけ早く再開し、地域の患者さんへの医療を続ける
時間の範囲発災の瞬間から避難・安全確認・帰宅まで発災後の数日〜数か月。休診、縮小診療、再開まで
主な中身初動の手順、避難誘導、役割分担、連絡、備蓄優先して続ける業務、必要な資源(人・電気・水・薬剤・データ)、代替手段、取引先や関係機関との連絡
使う人当日勤務しているスタッフ全員院長・事務長を中心とした判断者
置き場所受付・診療室など、すぐ手に取れる場所に短い版を掲示院長室やクラウド上など、院外からも確認できる場所

外来クリニックの場合、まず防災マニュアルで「今日ここにいる人をどう守るか」を固め、そのうえでBCPとして「何日休診になりうるか、何を優先して再開するか」を考える順番が現実的です。

一次資料とひな形を先に確認する

ゼロから書き始める前に、公的な資料や地域のひな形を確認しておくと抜け漏れを減らせます。厚生労働省は、医療機関の災害対策やBCPの考え方に関する資料や手引きを公表しています。また、都道府県や市町村、地域の医師会・歯科医師会が、診療所向けのマニュアル例やBCPのひな形を用意している場合があります。貴院の所在地で使えるものがないか、まず確認してみてください。

あわせて、建物の用途や規模、テナントとして入居しているかどうかによって、防火管理者の選任や消防計画の作成・届出、消防訓練の実施が求められる場合があります。必要な手続きは所轄の消防署や建物の管理会社に確認し、防災マニュアルの内容と矛盾しないよう整えておきましょう。

ポイント

ひな形はそのまま使うと、病院向けで項目が多すぎたり、貴院の間取りやスタッフ数に合わなかったりします。「自院の図面」「当日の最少人数」「待合室にいる患者さんの顔ぶれ」の3つを横に置きながら、使う部分だけを抜き出して書き直すのがおすすめです。

地震・停電・水害の初動を「最初の数分」で書く

防災マニュアルの初動の部分は、災害の種類ごとに「最初にやること」を短い箇条書きで書き、A4用紙1枚程度にまとめて受付と各診療室に貼っておくと使いやすくなります。

地震

停電

水害(大雨・洪水・内水氾濫)

水害は地震と違い、気象情報である程度前もって備えられる災害です。国土交通省のハザードマップポータルサイトや自治体のハザードマップで、貴院の所在地の浸水想定を確認しておきましょう。

注意

待合室の患者さんの避難誘導|子ども連れ・高齢の方・診療中の方

待合室にいる患者さんは、医院の建物の構造も避難経路も知りません。スタッフが落ち着いて、短く具体的な言葉で誘導することが何より大切です。

避難経路と集合場所を先に決めて、図にする

院内の図面に、出入口・非常口・避難経路・消火器の位置・集合場所を書き込んだ「避難経路図」をつくり、受付の内側とスタッフルームに掲示します。ビルのテナントであれば、ビル全体の避難計画と矛盾しないよう管理会社に確認しましょう。日ごろから通路や出入口に物を置かないことも、避難経路を守るうえで欠かせません。院内の動線の考え方はクリニックの動線設計の記事でも詳しく扱っています。

患者さんの状態ごとの誘導のしかた

患者さん気をつけること声かけの例
小さな子ども連れの保護者子どもを抱っこ・手つなぎにしてもらう。ベビーカーは避難の妨げになる場合がある。きょうだいがバラバラの場所にいないか確認「お子さんを抱っこして、私についてきてください」「お子さんは全員そろっていますか」
保護者が診療中の子ども待合室で一人になっている子どもがいないかを最初に確認し、スタッフが付き添う「お母さんのところに一緒に行こうね。手をつなごう」
高齢の方・杖や車椅子の方階段や段差で介助が必要。誘導役を一人つける。急がせすぎない「足元に段差があります。腕につかまってください」
診療中・処置中の方処置を安全に止めてから移動する。麻酔や処置の直後の方は体調にも注意「処置はいったん止めます。体調はいかがですか。ゆっくり立ちましょう」
耳が聞こえにくい方・日本語に不慣れな方声だけでは伝わらないことがある。身ぶりや紙で示す指で出口を示し、「こちら」と書いた紙を見せる

人数確認は「受付の一覧」で行う

避難した後は、院内に残っている人がいないかを確認します。受付の予約一覧や受付済みの一覧を紙で出せるようにしておくと、停電で画面が見られないときにも人数を確かめられます。付き添いの家族やきょうだいは受付一覧に載らないことが多いため、「お連れの方も含めて何名ですか」と聞き取る手順を入れておきましょう。

待合室の子どもへの配慮は、日ごろの待合室づくりとも関係します。小児科の待合室づくりの記事もあわせて参考にしてください。

少人数でも回る役割分担表のつくり方

防災マニュアルでよくある失敗が、「院長が指示を出す」「全員で誘導する」のように、だれが何をするのかがあいまいなまま終わっていることです。名前ではなく「席」や「担当」で役割を決めておくと、当日の顔ぶれが変わっても動けます。

役割分担表の例

役割主な担当やること不在のときの代わり
全体の指揮院長避難・診療中止・帰宅の判断、関係機関への連絡の指示副院長・事務長・その日の最上位者
診療室の患者さん対応各診療室の担当スタッフ処置の中断、患者さんの安全確保と誘導隣の診療室の担当
待合室の誘導受付スタッフ呼びかけ、出口への誘導、子どもや高齢の方の確認手の空いたスタッフ
人数確認・記録受付(2人目)受付一覧での人数確認、けが人の記録、時刻の記録事務長
安全確認指定のスタッフ火の気・ガス・電源・薬品・医療ガスの確認、出入口の確保院長
連絡事務長スタッフの安否確認、予約患者さんへの連絡、関係先への連絡院長

スタッフが少ない日も、「最初にやること」の優先順位を決めておけば迷いません。基本は、命を守る(その場の安全確保)→ 逃げる(避難誘導)→ 数える(人数確認)→ 伝える(連絡)の順です。

連絡網と安否確認の方法

クリニックの災害対策としての備蓄品リストと院内の安全確認

備蓄品は「たくさん置く」より、「どこに何があるかを全員が知っていて、期限が切れていない」ことの方が大切です。何日分を備えるかは、自治体や関係団体が示している目安、貴院のスタッフ数、院内で待機する可能性のある人数から決めましょう。

備蓄品リストの例

分類品目の例確認のポイント
明かり・電源懐中電灯、ヘッドライト、乾電池、モバイルバッテリー、ラジオ電池の残量。ヘッドライトは両手が空くので誘導に便利
水・食料飲料水、長期保存できる食品賞味期限。子ども連れの方が院内に残る場合も想定する
救護救急セット、毛布・アルミシート、使い捨て手袋、マスク診療用の物品と分けて保管し、持ち出せるようにする
衛生簡易トイレ、ウェットティッシュ、ごみ袋、おむつ断水時のトイレの使い方を決めておく
情報・事務受付一覧を印刷する用紙、筆記具、スタッフと関係先の連絡先一覧、避難経路図停電でパソコンが使えない前提で紙でも持つ

薬剤や医療材料、医療ガスなど診療に関わる物の備えや、停電時の機器の扱いは、診療内容によって大きく変わります。

院内の転倒・落下・散乱を防ぐ

地震で危ないのは、揺れそのものより、倒れてくる家具や落ちてくる物、床に散らばった物です。次の点を年に一度は見直しましょう。

待合室の床をすっきり保つ|アートパークという選択肢

子ども向けのおもちゃや絵本を置く場合は、地震のときに散乱しにくい置き方や、片づけの決まりも考えておくと安心です。当社が提供している「アートパーク」は、待合室のテレビ1台で、お子さんが親御さんのスマートフォンで描いた魚などの絵が、大画面の水槽「すいぞくかん」を泳ぎだすサービスです。共有のおもちゃやタッチパネルを置かないため、消毒や片づけの手間がかからず、床に物を増やさずに子どもの待ち時間をつくれます。壁掛けなら床面積を使わず、スタンド置きでも1畳未満に収まります(壁への取り付けは医院さまの手配となります)。

防災の観点では、テレビを壁に掛ける場合も、スタンドに置く場合も、地震で倒れたり落ちたりしないよう金具や転倒防止の器具を確認することが前提です。設置場所を決める際は、避難経路をふさがない位置かどうかもあわせてご確認ください。

医院の避難訓練のやり方と、マニュアルの見直し

防災マニュアルは、つくっただけでは使えません。実際に体を動かしてみると、「この扉は重くて開けにくい」「集合場所が狭い」「受付一覧の印刷に時間がかかる」など、机の上では気づかなかった問題が見えてきます。

短い訓練を、診療の合間に行う

全員がそろう時間を長く取るのは難しいため、昼休みや診療前後の短い時間で、テーマを一つに絞って行う方法がおすすめです。

訓練の種類やり方確認できること
読み合わせ初動の紙を全員で読み、自分の役割を口に出して言う役割の理解、手順のあいまいな所
場面の想定「診療中に揺れた、待合室に親子が3組いる」など場面を決め、だれが何をするかを話し合う役割の重なりや抜け、少人数の日の動き
歩いて確かめる避難経路を実際に歩き、集合場所まで行く。車椅子やベビーカーの通れる幅も見る通路の障害物、扉の開けやすさ、所要時間
停電の想定照明を落とし、懐中電灯だけで受付一覧の確認や連絡をしてみる明かりの場所、紙の一覧の出し方
連絡の訓練連絡網でスタッフに安否確認のメッセージを送り、返信を集める連絡先の誤り、返信の集め方

見直しのタイミングを決めておく

新しく入ったスタッフには、入職時の説明に防災マニュアルの読み合わせと避難経路の確認を入れておくと、教え漏れがなくなります。

チェックリスト

まとめ

クリニックの防災マニュアルは、発災の瞬間から避難・帰宅までに「今日ここにいる人を守る」ための手順書です。診療を再開するためのBCPとは目的が違うため、両方を分けて考えると整理しやすくなります。まず厚生労働省や自治体、地域の医師会・歯科医師会の資料を確認し、地震・停電・水害の初動を短くまとめて掲示しましょう。待合室では、一人になっている子どもや高齢の方を最初に気にかけ、短く具体的な言葉で誘導します。役割は名前ではなく担当で決め、備蓄品と院内の固定を年に一度点検し、短い訓練を重ねてマニュアルを育てていくことが、少人数の外来クリニックでも続けられる災害対策です。

アートパーク編集部(株式会社NEVER)
歯科・小児科の待合室向けに、子どもが描いた絵がテレビの大画面で泳ぐ「アートパーク」を開発・提供しています。愛知県豊川市。