歯科のスタッフ定着の仕組み|入職後90日の受け入れ・業務の見える化・面談の型・子育て世代のシフトで「辞めない医院」をつくる
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歯科医院の経営で、院長・事務長の時間と気力を大きく奪うのが「辞める→求人を出す→教える→また辞める」の繰り返しです。歯科のスタッフ定着は、待遇を上げるか、相性のよい人に当たるのを待つしかない、と考えられがちですが、実際には入職直後の受け入れ方、業務の分かりやすさ、話を聞く場の有無、働き方の柔軟さといった「仕組み」で変えられる部分が多くあります。この記事では、採用した後の話に絞り、歯科衛生士・歯科助手が辞める理由の整理から、入職後90日の受け入れ計画、業務の見える化、スタッフ面談の型、子育て世代のシフトの組み方までを、明日から使える表・声かけ例・チェックリストとともにまとめました。
歯科のスタッフ定着を「仕組み」で考える|辞める理由を時期で分ける
スタッフの定着に取り組むとき、最初にやりたいのは「なぜ辞めたのか」を個人の事情で片づけず、時期と理由で分けて見ることです。歯科衛生士の離職も歯科助手が辞める理由も、本人が退職時に話す内容は「家庭の事情」「体調」などの当たり障りのない言葉になりがちです。そこで、退職者が入職からどのくらいの時期に辞めたのかと、在籍中に出ていた小さなサインを並べてみると、医院側で手を打てる部分が見えてきます。
時期ごとに起こりやすいことと、医院の打ち手
| 時期 | 起こりやすいこと | 医院側で打てる手 |
|---|---|---|
| 入職〜1か月 | 聞いていた仕事内容と違う。誰に何を聞けばよいか分からない。前の職場とやり方が違い戸惑う | 初日からの受け入れ計画、教育担当の指名、医院独自のやり方の一覧 |
| 1〜3か月 | 覚えることが多く自信をなくす。人によって言うことが違い混乱する。評価されているか分からない | 手順書で「正解」を一本化する、節目ごとの振り返り面談 |
| 半年〜数年 | 仕事に慣れて先が見えなくなる。特定の人に負担が偏る。人間関係の小さな不満がたまる | 定期面談、役割と担当の見直し、学ぶ機会や任せる範囲の相談 |
| ライフイベント期 | 結婚・出産・育児・介護で、今の働き方が続けられなくなる | 勤務時間や曜日の選択肢、急な休みを前提にしたシフト、復帰の相談窓口 |
表を見ると分かるように、早い時期の退職ほど「受け入れ方」と「分かりやすさ」の問題が、時間がたつほど「話を聞く場」と「働き方」の問題が大きくなります。貴院の過去の退職者を思い出して、どの行に当てはまるかを書き出してみてください。数人分並べるだけでも、手を打つべき場所の見当がつきます。
「いい人が来れば解決する」から抜ける
欠員が出るたびに採用でしのいでいると、教える側の負担が重なり、既存スタッフまで疲れて辞めるという連鎖が起こりがちです。採用を強化すること自体は必要ですが、受け入れの仕組みがないまま人を増やしても、同じところで同じように辞めていきます。採用の進め方そのものは歯科衛生士の採用の見直し方の記事で扱っているので、ここでは「来てくれた人に残ってもらう」ことに集中します。
入職後90日の受け入れ計画をつくる
入職直後は、本人にとって最も不安が大きく、医院にとっても忙しい時期です。「忙しいから見て覚えてもらう」になりやすいのですが、この時期の放置が早期離職の大きな原因になります。最初の90日間で何をどこまでできるようになればよいかを、あらかじめ紙1枚にまとめておきましょう。
90日間の段取りの例
| 期間 | 本人の目標 | 医院が用意すること |
|---|---|---|
| 入職前〜初日 | 医院の全体像と1日の流れが分かる | ロッカー・ユニフォーム・名札・連絡先の準備、院内の案内、全員への紹介、教育担当の指名 |
| 1週目 | 院内の物の場所、受付から会計までの流れ、医院の決まりごとが分かる | 医院独自のルール一覧、毎日の終わりの5分振り返り |
| 2〜4週目 | 担当業務の基本を、見守りのもとで一人でできる | 手順書、できた業務の記録表、1か月目の面談 |
| 2か月目 | 担当業務を一人で回せる。困ったときに誰に聞くか分かっている | 任せる業務の範囲の確認、教育担当以外のスタッフとの関わり |
| 3か月目 | 医院の一員として自分の役割を説明できる | 3か月目の面談で、良かった点・困った点・次に覚えたいことを確認 |
大切なのは、本人と教育担当の両方がこの表を持っていることです。「今どこまで来ているか」が分かると、本人は焦らずに済み、教育担当も教える順番に迷いません。経験者を採用した場合も、医院ごとに器具の置き場所や予約の取り方、カルテの書き方は違います。「経験者だから大丈夫」と省略せず、医院独自のやり方だけでも同じ表で伝えましょう。
教育担当を決め、教育担当の負担も見る
「みんなで教える」は、裏返すと「誰も責任を持って教えない」になりがちです。教育担当を一人決め、最初の質問の窓口をその人に集めます。そのうえで、教育担当の診療枠や担当業務を一時的に減らすなど、教える時間を業務として確保することが欠かせません。教える人が疲れ切ってしまうと、今度はその人が辞める理由になります。
- 初日に院長が不在で、誰も新人を紹介しないまま診療が始まる
- スタッフごとに教え方が違い、新人が「どれが正しいのか」分からなくなる
- 最初の1か月間、一度も面談をせず、辞めると言われて初めて不満を知る
- 「前の医院ではこうだった」という発言を否定し、本人の経験を活かせない
- 教育担当に何の配慮もせず、通常業務に教育を上乗せする
初日にかけたい声の例
初日の印象は、その後の数か月の受け止め方を左右します。「分からないことは、何回でも○○さんに聞いてください。同じことを聞いても大丈夫です」「最初の1か月は覚えることが多いので、できなくて当たり前です」と、先に伝えておくだけで、質問のしやすさが大きく変わります。
業務の見える化|「聞かないと分からない」をなくす
歯科医院の業務は、診療補助、滅菌・消毒、器具の準備と片づけ、受付・会計、在庫管理、清掃など多岐にわたります。これらの多くが特定のベテランの頭の中にしかないと、新人は毎回聞かなければ動けず、ベテランは同じ説明を繰り返すことになります。業務の見える化は、新人のためだけでなく、既存スタッフの負担を減らすための取り組みです。
まず作りたい3つのもの
- 業務の一覧:1日・1週間・1か月の単位で、誰が何をするかを表にする。担当が決まっていない業務がないかもここで確認できる
- 手順書:器具の準備や滅菌の流れなど、毎回同じ手順を踏む業務を写真つきでまとめる。完璧を目指さず、スマートフォンで撮った写真に短い説明を添えるだけでも十分
- 医院独自のルール一覧:「この先生はこの器具をこの順番で使う」「この時間帯はこの電話を優先する」など、他院から来た人がつまずきやすい決まりごと
手順書は一度に全部作ろうとすると続きません。新人に教えるたびに「今説明した内容を、新人さん自身に書いてもらい、教育担当が確認する」形にすると、教えながら手順書が増えていきます。書いた本人の理解も深まります。
負担の偏りを見つける
業務の一覧ができたら、担当者ごとの量を見比べてみましょう。片づけや在庫の発注、急な電話対応など、目立たないけれど時間を取られる仕事が特定の人に集中していることがよくあります。こうした「見えない仕事」の偏りは、長く勤めている人ほど不満をためやすいところです。担当を持ち回りにする、時間を区切って交代するなど、偏りをならす工夫をしましょう。
待合室まわりの「見えない仕事」を減らす|アートパークという選択肢
業務の一覧をつくると、待合室のおもちゃや絵本の片づけ・消毒が、診療の合間に少しずつ時間を取っていることに気づく医院もあります。当社の「アートパーク」は、待合室のテレビ1台で、お子さんが親御さんのスマートフォンで描いた魚などの絵が、大画面の水槽「すいぞくかん」を泳ぎだすサービスです。共有のおもちゃやタッチパネルを置かないため、消毒や片づけの手間がかかりません。アプリのインストールや会員登録は不要で、お子さんの氏名・顔写真・生年月日も取得しないので、受付で個人情報を扱う手間も増えません。描いた作品は5分ほど(最長10分)で画面から退場するため、閉院後に何かを消したり整理したりする作業もありません。スタッフの手間を増やさずに、子ども連れの患者さんの待ち時間を過ごしやすくする方法の一つとして検討してみてください。
スタッフ面談の型|頻度・質問・記録の決め方
スタッフが辞めると言い出したとき、院長が「そんなことで悩んでいたとは知らなかった」と感じることは少なくありません。不満や迷いは、言える場がなければ表に出てきません。定期的なスタッフ面談は、問題が大きくなる前に話を聞くための仕組みです。
頻度と時間を先に決める
面談は「何かあったら」ではなく、あらかじめ予定に組み込みます。入職後は1か月目・3か月目、その後は半年に一度など、医院の規模に合わせて決めましょう。時間は一人15〜30分程度でも構いません。診療の合間に立ち話で済ませず、座って話せる場所と時間を確保することで、「ちゃんと聞いてもらえる」と感じてもらえます。勤務時間内に行い、業務として扱うことも大切です。
面談で使える質問の例
- 「この1か月(半年)で、できるようになったと思うことは何ですか」
- 「仕事の中で、やりにくい・時間がかかると感じることはありますか」
- 「誰かに負担が偏っていると感じることはありますか」
- 「これから覚えたいこと、任せてほしいことはありますか」
- 「働く時間や曜日で、今後変えたいと思っていることはありますか」
- 「院長(医院)に、こうしてほしいと思うことを一つ挙げるとしたら何ですか」
質問は「不満はありますか」と正面から聞くより、具体的な場面を思い浮かべやすい聞き方の方が答えやすくなります。また、面談の最初に院長から、その人の良かった点を具体的に伝えると、その後の話が前向きになりやすいものです。
面談でやってはいけないこと
- 話を途中でさえぎって、反論や説明を始める
- 出てきた意見について「それは誰が言っていたの」と発言者を探す
- 聞いたことを何も反映せず、次の面談で同じ話を繰り返させる
- 結婚・出産の予定など、本人が話していない私生活の事情を詮索する
面談で出た内容は、本人の了解を得たうえで簡単に記録し、「次回までに医院がやること」を一つでも決めて伝えます。すぐに変えられないことは「今すぐは難しいが、○月までに検討する」と期限をつけて返すと、話したことが無駄にならなかったと感じてもらえます。院長に直接言いにくいこともあるため、事務長やチーフなど、院長以外が話を聞く機会を別に設けるのも一つの方法です。
子育て世代スタッフのシフトと、急な休みのカバー
歯科衛生士・歯科助手には子育て中の方も多く、ライフイベントをきっかけに「今の働き方では続けられない」と退職を選ぶケースがあります。時間や曜日の選択肢を用意しておくことは、今いるスタッフに長く働いてもらうためにも、一度離れた人に戻ってきてもらうためにも有効です。
働き方の選択肢と、医院側の工夫
| 選択肢 | 医院側の工夫 | 気をつけたいこと |
|---|---|---|
| 短時間勤務 | 午前のみ・夕方前までなど、時間帯を区切った枠をつくる | 夕方以降の診療を誰が担うかを先に決めておく |
| 曜日固定 | 保育園や学校の予定に合わせ、勤務する曜日を固定する | 土曜など人が足りない曜日の担当が特定の人に偏らないようにする |
| 長期休み中の調整 | 学校の長期休みの時期だけ勤務日数を減らせるようにする | 早めに希望を集め、予約の枠と合わせて調整する |
| 育児休業からの復帰 | 休業中も医院の近況を伝え、復帰前に面談で働き方を相談する | 復帰直後は業務の変更点を改めて伝える時間をとる |
育児や介護と仕事の両立については、育児・介護休業法などで事業主が講じるべき措置が定められています。短時間勤務や休業の扱いを就業規則にどう定めるかは、厚生労働省の資料を確認するか、社会保険労務士などの専門家に相談してください。
急な休みを「前提」にしたシフトにする
子どもの発熱などによる急な休みは、どうしても起こります。そのたびに本人が謝り、周りが不満を抱える状態が続くと、本人は居づらくなって辞めてしまいます。急な休みが出ることを前提に、次のような準備をしておきましょう。
- 欠勤が出たときの連絡先と連絡方法を一本化する(誰に、何時までに、何で連絡するか)
- 一人が休んでも回るよう、主要な業務は二人以上ができる状態にしておく(前節の手順書が役立つ)
- 急な欠員が出た日の予約の調整方法を、受付で決めておく
- 休んだ人を責めず、代わりに入った人にも院長からお礼を伝える
「お互いさま」の空気は、院長の一言から生まれます。子育て中のスタッフだけを特別扱いするのではなく、介護や自身の通院など、誰にでも急な休みが必要になる時期があることを、医院の方針として伝えておくとよいでしょう。
- 子育て中であることを理由に、本人の希望を聞かずに担当業務や勤務時間を一方的に減らすことは避けましょう。
- シフトの不公平感は、子育て中の人とそうでない人の両方に生まれます。希望の出し方と決め方のルールを、全員に同じように示しておきます。
定着を確かめる記録と、見直しチェックリスト
定着の取り組みも、やりっぱなしにせず、医院の記録で確かめながら改善していきます。他院と比べるより、貴院の過去と比べる方が、打った手が効いているかどうかを判断しやすくなります。医院全体の数字の見方は歯科医院の経営を数字で見る基本の記事も参考にしてください。
残しておきたい記録
- 在籍期間:入職日と退職日。職種ごとに、どのくらいの期間で辞める人が多いかを見る
- 退職の理由:本人が話した理由に加え、在籍中の面談で出ていた困りごと
- 面談の記録:出た意見と、医院が決めた対応、その対応をしたかどうか
- 受け入れ計画の進み具合:90日間の表のうち、予定どおり進んだところと遅れたところ
退職が決まった人には、最後に「今後のために、働きにくかった点を教えてもらえますか」と聞いてみましょう。辞めることが決まった後だからこそ話せる内容があります。聞いた話は責めずに受け止め、次の人の受け入れに活かします。
- 過去の退職者を、辞めた時期と理由で整理したことがある
- 入職後90日間の受け入れ計画が紙1枚にまとまっている
- 新人ごとに教育担当を決め、教える時間を業務として確保している
- 初日に院長またはチーフが新人を全員に紹介している
- 医院独自のルール一覧と、主な業務の手順書がある
- 業務の一覧で、担当の偏りや担当者のいない業務を確認している
- 入職1か月目・3か月目に面談をしている
- 既存スタッフとも、半年に一度など決まった頻度で面談している
- 面談で出た意見に、期限をつけて医院の対応を返している
- 院長以外にも相談できる相手がいる
- 短時間勤務や曜日固定など、働き方の選択肢を示している
- 急な欠勤時の連絡方法と予約の調整方法が決まっている
- 主要な業務を二人以上ができる状態にしている
- 就業規則の育児・介護の扱いを、一次資料や専門家で確認している
- 退職者に、働きにくかった点を聞いて記録している
まとめ
歯科のスタッフ定着は、待遇や相性だけで決まるものではなく、受け入れ方・業務の分かりやすさ・話を聞く場・働き方の柔軟さという仕組みで変えられる部分が多くあります。まずは過去の退職者を時期と理由で整理し、早い時期の退職が多ければ入職後90日の受け入れ計画と業務の見える化を、時間がたってからの退職が多ければスタッフ面談と担当の見直しを、ライフイベントでの退職が多ければシフトの選択肢と急な休みのカバー体制を優先しましょう。欠員が出るたびに採用する繰り返しから抜けるには、来てくれた人が「ここで続けられる」と思える仕組みを一つずつ積み上げることが近道です。